日本のヤマノイモ科 

ヤマノイモ科の植物は世界の湿潤な熱帯に分布の中心があるが、ピレネー、地中海域、小アジア、東アジア、北米東岸、チリなどにおいては、かなり冷涼な地域にまで分布している。これらの地域の中で、日本を含む東アジアだけは、赤道直下から高緯度にまで亘って湿潤な森林が途切れずに存在し、ヤマノイモ科の植物も種ごとの分布域を南北に少しずつずらしながら、このような森林とともに亜寒帯気候の地域にまで、科としては連続的に分布している。

日本の野生種は、変種も1種と数えると、米倉と梶田によるYListには 18種挙げられている。そのうち、キールンヤマノイモ (ナガイモに似た種であり、トカラ列島以南奄美や沖縄本島に分布しているとされていた)は、初島らの近年のリスト(初島住彦・天野鉄夫 (1994)「増補訂正 琉球植物目録」、沖縄生物学会、など)からは省かれている; ケナシウチワドコロ(ウチワドコロの変種)は、分布地が旧満州であり (北川政夫 (1965) "東亜植物断想録 (20)" 植物研究雑誌 40:134−139) 日本ではない; などのためこれら2種を除き 16 種とし下の一覧表にまとめた。なお、これらの種は、別項に記したような分類方法の変遷があっても、常にヤマノイモ属に帰属して来ている。

16種のうち、10種がStenophora節 (Burkill) の種である。この節の南端の種は 赤道直下に分布し (Burkill (1954) "Dioscoreaceae" In Van Steenis [ed.] Flora Malesiana p293-335. Noordhoff (Groningen))、北端の種の北限は北海道中部から極東ロシアのアムール河の流域であり、この間北緯3度から55度までの範囲に約20種がある。日本にはこのうちのほぼ北半分の種が分布していることになる。

他の節の種としては、Enantiophyllum節では北端の種を含む3種 (最近記載文が出されたユワンオニドコロがこの節に所属した場合には4種) 、Lasiophyton節とOpsophyton節のそれぞれの分布域の北端の種、などが分布している。

この表での学名はYListのものを基準にしたが、一部の種では変種名の部分や著者名に関わる部分に少し異なる部分がある。
種ごとの画像のページには、種の特徴を端的に現す花の外部形態や開花時期などのほかに、いくつかの種については、ツル性の程度、花芽の発達時期、花の性による花序の着生位置の違い、下位節での葉の輪生程度、などについても記した。


  
表. 日本産のヤマノイモ科の野生種とおもな栽培種一覧(2008年11月10日版)。日本のヤマノイモ科の野生種も栽培種も、すべてヤマノイモ属(Dioscorea)に所属している。この表ではおおよその分布域が北の種から南へと並べた。

学名
亜属名
染色体数(2n)
和名
つる*
おおよその分布域
むかご
雌花
雄花
花の匂い

Dioscorea nipponica Makino
Stenophora
40
ウチワドコロ
北海道中部〜近畿
なし
なし
D. tokoro Makino
Stenophora
20
オニドコロ
北海道南部〜九州南部(屋久島)
なし
なし
D. japonica Franch. et Savat. ex Murray
Enantiophyllum
40
ヤマノイモ
北海道南部〜九州南部(屋久島)
あり
あり
D. gracillima Miq.
Stenophora
20, 40
タチドコロ
本州北部〜九州
なし
なし
D. septemloba Thunb.
Stenophora
20
キクバドコロ
東北南部〜九州南部(宮崎)
なし
なし
D. septemloba Thunb var. platyphylla M. Mizush. ex T. Shimizu Stenophora コシジドコロ
新潟県三俣清津峡、長野県北部の下高など
なし
D. bulbifera var. vera Prain et Burkill
Opsophyton
 
ニガカシュウ
関東北部(渡良瀬)〜南西諸島〜熱帯各地
あり
あり
D. tenuipes Franch. et Savat.
Stenophora
20, 30, 40
ヒメドコロ
関東南部〜九州南部(大隈)
なし
なし
D. quinqueloba Thunb.
Stenophora
20
カエデドコロ
近畿〜九州南部(喜界島)
なし
あり
D. izuensis Akahori
Stenophora
20
イズドコロ
伊豆半島東岸八幡野 〜大瀬
なし
なし
D. septemloba Thunb. var. sititoana (Honda et Jotani) Ohwi
Stenophora
40
シマウチワドコロ
伊豆諸島
なし
なし
D. asclepiadea Prain et Burkill
Stenophora
40
ツクシタチドコロ
熊本〜奄美大島
なし
あり
D. tabatae Hats. ex Yamashita & Minoru N. Tamura
ユワンオニドコロ
奄美大島
あり
D. pentaphylla L.
Lasiophyton
アケビドコロ
沖縄本島本部半島〜インドシナ半島〜ネパール
あり
D. luzonensis Schau.
Enantiophyllum
ルゾンヤマノイモ
大東島〜中間になく〜フィリッピン
なし
D. cirrhosa Lour.
Enantiophyllum
ソメモノイモ
沖縄本島、石垣、西表〜インドシナ半島
なし

以下はおもな栽培種
栽培域

D. polystachya Turcz
Enantiophyllum
ナガイモ
北海道〜九州
あり
よい香り **
D. alata L.
Enantiophyllum
ダイジョ
東京都(小笠原)、四国〜九州〜沖縄〜世界の湿潤熱帯
あり

* つるが巻く方向 左: 左上がり巻き、右: 右上がり巻き、** 大和田真澄氏からの私信

  • 上表の種は、大井次三郎 (1992)「新日本植物誌」、初島住彦・天野鉄夫 (1994)「増補訂正 琉球植物目録」、 米倉浩司・梶田忠 「BG Plants 和名−学名インデックス (YList)」などを参考にして選んだ。
  • ユワンオニドコロは発表後しばらくのあいだ nomen nudum(裸名) であったが、最近になって記載文が発表され(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 59: 51-53 (2008))、学名は表中のようになった。
  • 学名と和名は、上記の文献に加えて、寺内良平(1990) "Genetic diversity and phylogeny of two species of the genus Dioscorea" から勘案して選んだ。
  • 亜属名は、Prain & Burkill (1936) "An account of the genus Dioscorea in the East" を modify した Ayensu (1972) "Anatomy of Monocotyledons IV, Dioscoreales" によった。
  • 染色体数は、Takeuchi (1998) "On the chromosome numbers and embryo sac formation of some Japanese Dioscorea species" [In Dioscorea Research 1] に基づいた。
  • おおよその分布域は、上記の大井、初島、Prain & Burkill の書に加えて、初島、田畑、高、武内の各位からの私信を参考にした。
  • ツルが巻く方向が左か右かは、左右性に関する木原均の考えに基づいた小野一 (1977)の論 「形態形成と突然変異(裳華房)p54−79」 にならって表現した。なお、この表現によれば、Prain & Burkill (1936)の図譜における twining to the right や twining to the left という表現と一致する。また、より分りやすくするために、上表では「上がり巻き」という語を補った。 → 左右性についてさらに詳しく

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