左右性 (Left and right handedness)

ヤマノイモ科の植物のツルの巻き方を表現する時、われわれの仲間では、横から見て「右上がり巻き」とか「左上がり巻き」と表現しています。垂れ下がったツルを見ている場合でも左右は変わりません。ヤマノイモ科に限らず、少なくともツルや巻きヒゲの場合の表現としては、齟齬が生じにくい表現方法であり、殊に「上がり巻き」という語を補うことによって、直感的に分かりやすくなっているかと思います。

この表現方法による左右は、生理的な状態でほとんどのDNAがとるいわゆるB型のDNAが「右巻き」と一般的に表現されていることに、また社会一般で「右ネジ」と呼ばれている普通のネジの螺旋の方向にも一致しています。

また、ヤマノイモ属についての膨大な研究を残しているイギリスの Burkill が多くの著作の中の図で表現している「twining to the left」とか「twning to the right」という英語の表現にも一致します。

一方、やや古い植物学での習慣「自分がツルになって螺旋階段を上るとき、体のどちら側が中心に向くかで表現する」によって表現すると右上がり巻きのツルは(そしてB型のDNAも、右ネジも)「左巻き」と表現されることになり、反対の表現になりますが、この習慣は現在では少数派になっていると思います。


なお、螺旋の左右性の表現法に統一性がないことの原因は、視点をどこに置くか、即ち人と対象物との相対位置が定まっていないからだ、という木原均の指摘と提案に基づく小野一による下記の詳細な解説があります。

小野 一 (1977):「左右性」 In [木原均監修、山口彦之編集 植物遺伝学 IV 形態形成と突然変異 昭和52年 裳華房発行、第1章の4(p54-p79)]

ヤマノイモについてのわれわれの表現も、この解説での定義にあっています。

この解説には、コムギをはじめとする植物の左右性に関することばかりでな く、DNA、ネジ、分子のキラリティー、タンパクのαらせんなどにも普遍的に通用する定義や、1975年に木原均博士がスウェーデンのウメオとストックホル ムやインドのデリーで講演をしたときアサガオと縄を見せてどちらに巻いているかを尋ねたときの聴衆からの答えなども、紹介されています。

 

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