D. bulbifera var. vera Prain et Burkill (ニガカシュウ)
ヤマノイモ属では、この D. bulbifera を唯一の例外として、原生地の大陸を越えて広がっている種はない (Prain & Burkill (1936))。この種だけは、広く、アフリカ、中南米、アジアの主として湿潤な熱帯から亜熱帯に分布してい る。それらの地域の中で、アジアでは亜熱帯を越えて北進し、日本の栃木県が分布地の北限である。左の写真には、ニガカシュウのメス株と、ヤマノイモのオス株とが写っている。ヤマノイモの葉は画面の中央に小さな葉が1枚見えるだけであり、ニガカシュウの葉に覆われてしまっている。鹿児島県姶良郡。2001年8月26日。 丸い粒状のものを着けたものがヤマノイモのオス花序であり、上を向いている。ニガカシュウのメス花序は下垂し、花被が少し開いているのが見える。
 

右の写真の黄色い定規に沿う花序はメス花序である。子房が短いため、パッと見には、さらに右の写真のオス花序との区別がつけ難い。なお、このオス株の花序の場合、花の成熟に伴って色が変わり、花序の基部の早く成熟した花から順にチョコレート色になる。このオス株は、沖縄の渡嘉敷島かナイジェリアのどちらかの産であるが、どちらであるかは栽培中の混乱により不明である。

メス花序
オス花序
 
メス花。花被はこれ以上あまり開かない。退化雄蕊は同格に6本あり、だいぶ大きく発達するが、葯を形成するまでに至ったものはまだみていない。右の側面像のように、子房は短く 2mm ほどである。 花後反転して上を向くことは、他の多くの種と同様である。
 

オス花。6枚の花被が、外側の3枚と中側の3枚とに分けられることは多くの他種と同じであるが、外側の3枚のほうが大きいことは他種と異なる点である。日本のニガカシュウにはメス株が少ないとする図鑑もあるが、これまで花を確認できた範囲では、オス株のほうが少ない。

花には、クズの花のものに似た芳香がある。

ニガカシュウは発芽能のある種子 (熱帯農業、43:265-270 (1999)) のほかにムカゴをつけ、双方の器官で繁殖する。日本に分布しているニガカシュウのムカゴには、表面に凹凸があり、くぼみに気泡が着くと水に浮きやすくなる点が、ヤマノイモやナガイモのムカゴと異なる。ニガカシュウは海岸沿いに生育していることが多いが、内陸の栃木県藤岡町の渡良瀬遊水地付近 (この種の北限の地) にも分布している。縄文海進の頃には東京湾がこの近くまで来ており、それによってもたらされたムカゴによるものかもしれない (大和田 (2002)”渡良瀬遊水地の植物” In 藤岡町史編さん委員会編 藤岡町史 資料編 藤岡町の自然、藤岡町) 。 また、和歌山県の海岸に漂着したニガカシュウのムカゴのうち22.5%が発芽したという報告がある (中西 et al.(2006) ”ニガカシュウ (ヤマノイモ科) のむかごの漂着と海流散布”、漂着物学会誌 4:15-18)。

ヤマノイモやナガイモのムカゴは、発芽させようと思って培養をはじめたあとに、発芽を抑える物質の合成が盛んに行われ蓄積して休眠状態が保たれるが、 ニガカシュウは培養をする以前に既に大量の発芽抑制物質を蓄積して休眠しており、親植物から離れた後の温度環境による休眠状態の可塑性が小さい (Jour. Plant Physiol., 138: 559-565 (1991)) 。

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