D. tenuipes Franch. et Savat. (ヒメドコロ)
ヒメドコロ。メス株(左)とオス株(右)(鹿児島県姶良郡、2001年8月27日)。ヤマノイモ属の他のメンバーに比べるとやや耐陰性が高く、向陽の林縁はもちろん、疎林ならば林内にも少し入って、また低い潅木林や草原に半ば埋もれるようにしても、生育し種子をつけている。あまり旺盛に繁茂することなく、全体の姿、花序、花、果実(カプセル)などに風情があるためか、山野草のカタログに掲載されていることがある。エドドコロの別名があると、牧野の植物図鑑には記されている。 この属の他のメンバーとは異なり、オス花序も下垂するうえ、メス花の子房の長さとほぼ同じ長さの柄がオス花にあるため、遠目には花序の雌雄を区別し難い。写真のメス株は一部が既にカプセルになっている。

日本のヤマノイモ属のなかで、ヒメドコロとタチドコロには染色体数に多型がある (種の一覧表を参照)。 ヒメドコロでは、外見上は区別が付かない 2n = 20、30、40の多型が見つけられ、それぞれ、九州全域と四国の一部、四国から関西、それよりも北という分布域をもち、南北の勾配がある (Takeuchi et al., Chromosome numbers of some Japanese Dioscorea species. Acta Phytotax. Geobot. 24: 168-173 (1970))。また、他の種では、南に生育している集団ほど種子の休眠期間が長いが、ヒメドコロだけは反対に北の集団ほど休眠期間が長く(Bot. Mag. Tokyo, 95:155-166 (1982); 種子生態, 19: 1-31 (1990))、生理的性質(この場合は温度反応性)の勾配に特異性がある。タチドコロの 2n=20 は本州と九州に、2n=40 は四国にのみ分布している。なお、ヤマノイモでも染色体数に違いがある個体が発見されているが、これは栽培種のナガイモとの交雑の結果生じた雑種の個体である (荒木・原田・八鍬、園学要旨 昭和57秋: 176-177)。

 
メス花序(左)とメス花(右)。花序は下垂し花後に反転して上を向くことは多くの他の種と同じ。子房の長さは約 3mmで、オス花(後出)の柄よりもわずかに長い。メス花の花被は他の種のものに比べて格段に細くテープ状である。6枚の花被が、重なり方によって、外側と内側の3枚ずつに区別できることは多くの他種と同じであるが、形の違いはわずかである。写真のものは開花後時間を経ているために雌蕊の先端の柱頭が褐色を帯びている。この三つの柱頭は、外側の花被の付け根から出ている雌蕊の先端にあるが、雌蕊は他の多くの種に比べると非常に短く、横から見たときには花被の付け根から少し盛り上がっているようにしか見えない。良く似ているオニドコロのメス花の雌蕊は長く突き出ており、容易に区別できる。退化雄蕊はほぼ同格の大きさで六つある。まず、この写真の三つの柱頭の間に白く三つ見え、これらは内側の3枚の花被の付け根についている。

残りの三つは、外側の3枚の花被の付け根に、即ち褐色の柱頭の基部側に、雌蕊の根元に食い込むようにして付いている。

オニドコロの退化雄蕊は長く伸びているが、ヒメドコロはこれらの写真のように伸びずに短い。


オス花序(左)とオス花(右)。 花被片の幅はオス花のほうがわずかに広い。同格の長さの雄蕊が6本、二つに分かれている先端を寄せて褐色の葯を花の中央に集めている。

 

オス花序(左、方眼は1mm)をメス花序と同じように下垂させ、さらにオス花の柄を子房のように長くして、メス花とオス花とを似させていることに何か意味があるのだろうか。

花に匂いを感じたことはない。

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