D. gracillima Miq. (タチドコロ)
タチドコロは、ツル性の程度が小さく、名前のように自身で立って生えていることがあるが (写真左)、ヤマノイモ属の他のメンバーと同じく、他物を覆うように生えることもある。生態上の特徴は、他の多くのメンバーが強光条件の日向を好んで生えるのに対し、日向には少なく雑木林の中など日陰に多く生えていることである。キクバドコロは林内に生えることができるが光が入るギャップに限られるし、ヒメドコロも日陰に生えることは出来るが林内には入れないことに比べると、タチドコロの耐陰性は強い。また、最下節に3枚から6枚の葉が輪生するという形態上の特徴もある (写真右)。この輪生という特徴はヤマノイモ属の日本の野生種では、ツクシタチドコロにも見られる。 同じ Stenophora 節に属し北米アパラチアに隔離分布している第三紀遺存種の D.quaternataD. villosa も同じ程度に輪生する。輪生は古い性質の relic である可能性が考えられる。 タチドコロには染色体数が 2n=20 と 40 の個体がある。外見上は区別できないが分布域を異にしており、2n=20 をもつ個体は本州と九州に分布しており、四国に分布している個体はすべて2n=40 である (Takeuchi et al (1970) : Chromosome numbers of some Japanese Dioscorea species. Acta Phytotax. Geobot. 24: 168-173)。 佐野市、2005年5月23日。

 

葉の裏は白い(左の写真)。 葉の裏側の表面には、ヤマノイモ属のものと しては非常に短い毛(おそらく 0.1mm 以下)が、密に生えている(右の写 真)。毛の長さは、葉脈の部分に生えている毛のほうが、葉肉の部分に生えているものよりも、わずかに長い。なお、この葉の裏の白さ(殊に青白さ)は、毛によるものだけではなく、葉の裏の表面のワックス類にもよっていると思われる。このようなワックス類の化学的組成とマクロ構造についての一般的な解説は Barthlott & Theisen (1998) "Epicuticular wax ultrastructure" In Kubitzki [ed.] The Families and Genera of Vascular Plants III. Flowering Plants Monocotyledons Lilianae (except Orchidaceae). p20-22. Springer-Verlag (Berlin Heidelberg N.Y.) に詳しい。

 

左から、メス花序、メス花。

メス花序は下垂し、メス花は花後反転して上を向く。メス花の花被6枚のうち、3枚ずつ内外に分けられわずかに大小の違いがある。開花直後の花被の色はこの写真のように薄いが、時を経ると花序の写真のように色が濃くなる。退化雄蕊は6本あるが、3本ずつ大小の違いがあり、大きな3本は外側の3枚の花被の付け根にある。柱頭は、大きな退化雄蕊の近くまで伸びている。


次がオス花序、右端がオス花。

オス花序は上方に向く。メス花序に比べると、花が密に着く。花被の色の変化はメス花に同じ。雄蕊は6本である。大きな3本は外側の花被の付け根に着き、葯は二つに分かれている。小さな3本の雄蕊は、単なる突起状である。

タチドコロに近縁と思われるツクシタチドコロのオス花では、この3本の単な る突起状の雄蕊が完全に退化し、雄蕊は3本だけである。タチドコロの退化雌蕊 はこの写真のようにある程度の長さがあり中央に明瞭に見えるが、ツクシタチ ドコロでは退化雌蕊は花の中央の底部が少し盛り上がっている程度にまで退化 している。

匂いはないと思う。

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