植物ホルモンのジベレリンは、多くの植物で休眠打破の作用を持っている。 しかし、シュウカイドウのムカゴ(Nagao & Mitsui (1959) Sci. Rep. Tohoku Univ. 4th Ser. 25: 199-205)、キリンソウの種子(Fujii et al.(1960) Bot. Mag. Tokyo 73: 404-411)、ウキクサの殖芽(Czopek (1964) Bull. Acad. Polon. Sci. Ser. Biol. 12: 177-182)、ナガイモのムカゴ(岡上 (1967) 植物の化学調節 2: 121-124)、など少数の植物では、ジベレリン処理を施したとき、単なる高濃度による発芽阻害ではないような低濃度でも、発芽が抑えられ休眠が誘導されることが観察されている。 これらのうち、シュウカ イドウとナガイモでは、ジベレリン生合成阻害剤の作用から、endogenous のジベレリンも休眠誘導作用を持つことが推定されている。また、このジベレリン誘導休眠という unusual な性質は、ヤマノイモ科ではナガイモに限らず科に普遍的に多くの種の栄養繁殖器官に見られる性質である。

一方、ジベレリンの生合成の経路には13位の炭素に何が結合するかによる2種類の経路がある。13位に水酸基が結合する合成経路(13-hydroxylation path) と、水素が結合する経路(13-nonhydroxylation path)の2種類である。通常の植物では、このうちのどちらか一方の経路だけが働いていることが多いが、ヤマノイモ科では、双方の経路ともに働いていると思われる(Tanno et al. (1992) Plant Physiol. 100: 1823-1826)。この unusual な合成経路と、ジベレリン誘導休眠とのあいだに関係があるかどうかはまだ分らない。