熱帯産のヤム
東京農業大学 国際食料情報学部 志和地弘信
(1)ホワイトギニアヤム(D. rotundata Poir.)
写真1 ホワイトギニアヤムのイモ
 アフリカで最も生産量が多く,熱帯雨林から湿潤サバンナの疎開林まで広く栽培されている種である。つるは右巻き,葉は互生あるいは対生し,やや狭い心臓形であるが,品種によって変異が大きい。雌雄異株であるが栽培種には雄株が多い。6〜7月にかけて開花し,自然交雑で比較的容易に種子を作る(Shiwachi et al. 2005)。

 イモは茶褐色の紡錘型で,肉色は白,肉質はち密で,含水率は60〜70%,「とろろ」は日本のナガイモなどに比べて粘りが少ない。肥沃な土地で大きな種イモを用いて栽培すると10ヵ月で25kg位まで成長する。一般に,一株から一個のイモが収穫されるが,ベナン共和国には複数のイモをつける品種もある。イモは2〜3ヵ月の休眠を有する。

 栽培期間は早生品種で6ヵ月,晩生品種で10ヵ月程度である。早生品種は湿潤サバンナの疎開林まで分布するが,晩生品種は熱帯雨林から低緯度の湿潤サバンナで栽培される。

写真2 ホワイトギニアヤムの草姿
写真3 ホワイトギニアヤムの雌花

  

(2)イエローギニアヤム(D. cayenensis Lam.)
 西アフリカ,中央アフリカおよび東アフリカの赤道付近の熱帯雨林地域で栽培される。特にナイジェリア東部からカメルーンなどで栽培が多い。また、カリブ海諸国で栽培される主要品種である。つるは右巻き,茎は断面が円筒形でとげがある。地際部には特にとげが多い。葉は互生あるいは対生し,ホワイトギニアヤムよりやや広く,丸みをおびている。成熟した個体は9月頃から開花し始めるが,栽培種には雄株しか見つかっていない。人工交配によってホワイトギニアヤムと交雑することからその中間種が存在するとみられる。ムカゴはほとんどつかない。
写真4 イエローギニアヤムのイモ
 イモは茶褐色の紡錘形で,肉色はカロチノイドを含むために淡黄色から黄色を呈する。肉質は緻密で,含水率は約60%,「とろろ」は粘りが少ない。肥沃な土地では20kg位まで成長する。イモの休眠はホワイトギニアヤムよりやや短い。ほとんどの品種は栽培期間が10〜12ヵ月の晩生である。

写真5 イエローギニアヤムの茎
写真6 イエローギニアヤムの雄花

 

(3)ダイジョ(D. alata
 インドシナ半島原産とされ,D. hamiltoniiD. persimilisの雑種集団から人為選抜によって生じたものと推測されている。3500年以上も前にアッサム,ミャンマーからタイ,インドシナを経て,中国南部を横断してインドネシアの島々に渡り,そこからニューギニアやソロモン,フィジー,サモアなどのオセアニア地域に伝播したと推定されている。我が国でも鹿児島や南西諸島で栽培されている。アフリカへの伝播は,インド経由で伝わったとされ,西および中央アフリカの熱帯雨林から湿潤サバンナにかけての広い地域で栽培されている。特に,シエラレオネやコートジボワールでは重要な種である。このように,伝播が広範に及ぶのはダイジョが航海時代の食料として利用されていたためと言われている。
写真7 ダイジョのイモ
 写真8 ダイジョのイモ。アントシアニンを含むものもある。
 つるは右巻き,茎には翼がありその断面は四角になることから他の種との判別が容易である。葉は互生あるいは対生し,やや狭い心臓形であるが,品種によって変異が大きい。花をつけることはまれである。国際熱帯農業研究所(International Insititute of Tropical Agriculture :IITA)に収集された開花系統には雄が多い。それらの開花は9〜11月頃である。種イモの植え付け時期を変えても開花時期が同じことから,開花は短日条件下で促進されると考えられる。ムカゴはほとんどつかない。

 イモの重さは5〜10kg位で,形は紡錘形,丸形およびイチョウ形まで変異に富んでいる。イモの表皮は茶褐色から暗褐色で,縦に割れ目がはいる。肉色は白色が多いが、アントシアニンを含んだ暗赤色や紫のイモもある。肉質の緻密さはホワイトギニアヤムに比べてやや劣る。収穫時の含水率は70〜75%である。イモは2〜3ヵ月の休眠を有する。栽培期間は早生品種で8ヵ月,晩生品種で10ヵ月である。

  

(4)Bitter yam(D. dumetorum(Kunth))
 熱帯アフリカ全域に広く分布するが,栽培は西アフリカに多い。カメルーンでは重要なヤムイモである。つるは左巻き,茎の断面は円筒形でとげがある。葉は三つ葉で他の種と容易に区別できる。葉や葉柄には毛がある。開花は7〜9月頃である。

 食用のイモは茶褐色の紡錘形で,肉色はカロチノイドを含むために淡黄色から黄色を呈する。イモの肉質は収穫直後では柔らかいが,時間がたつにつれて堅くなる。野生種のイモはアルカロイドを含むため長時間煮て供されるが,栽培種のアルカロイドの含有量は少ないとされる。栽培期間は8〜10ヵ月で,収穫時のイモの含水率は70〜80%,イモの休眠は3〜4ヵ月である。

写真9 Bitter yam のイモ
写真10 Bitter yam の草姿


(5)トゲイモ(D. esculenta
 東南アジア、パプアニューギニアで生産が多い。アフリカでは西および中央アフリカの熱帯雨林から湿潤サバンナ地域で栽培される。つるは左巻き,茎は断面が円筒形でとげがある。葉は幅広い心臓形で互生し,葉柄の基部にもとげがある。花はほとんど見られない。
写真11 トゲイモのイモ

写真12 トゲイモの草姿

 他のヤムイモと違ってイモは一株に数個着生する。ジャガイモのように株元から伸びたストロン(stolon)の先端が肥大して数百g位の紡錘形のイモになる。イモの表皮は茶褐色で滑らかである。イモはアルカロイドを含まず,肉色が白色,肉質は繊維が少なく食味が良い。収穫時の含水率は60〜70%。栽培期間は8〜10ヵ月で,イモは2〜3ヵ月の休眠を有する。


(6)カシュウイモ(D. bulbifera
 熱帯アジアやアフリカの両大陸に野生する唯一のヤムイモで,オセアニアや西インド諸島にも広く分布している。熱帯アフリカ全域に広く分布するが,栽培は西アフリカに多い。つるは左巻き,茎の断面は円筒形で,葉は幅広い心臓形で対生もしくは互生する。その形状はトゲイモに類似するが茎や葉柄にとげがないことで判別できる。開花は7〜9月頃である。

 地下のイモは小さく偏球形もしくは不定形で食用にはしない。一方,食用とされるムカゴは非常に大きくなり,しばしば2kgに達する。これは茶褐色の偏球形で,アジア原産のカシュウイモと異なって明らかな稜がある。肉色は白色,アルカロイドを含むため長時間煮て供される。栽培期間は8〜10ヵ月で,イモの休眠は3〜4ヵ月である。

写真13 カシュウイモのムカゴ(左がアジア産、右がアフリカ産)
写真14 カシュウイモのイモ
 
引用・参考文献
1) Shiwachi H., T. Ayankanmi and R. Asiedu 2005, Effect of photoperiod on the development of inflorescences in white Guinea yam (Dioscorea rotundata), Tropical Science 45:115-119.