Borderea

Borderea 属は、B. pyrenaica Miegev. と B. chouardii (Gaussen) Heslot の2種からなっている。 2002年のCaddickらの分類法によった場合には、以前にも Dioscorea属にあったときがあるため、そのときの名前を用い、前種なら Dioscorea pyrenaica Bubani ex Gren. となる。 両種とも小型であり、中央ピレネーのおもにスペイン側に "高山植物" として生育している。

染色体の基本数は x = 6 で、科の中では最少数である。Borderea と同じよ うな形態的特長を持ち山岳の岩場に生えている点でも共通するチリのアンデスに固有なヤマノイモ科の Epipetrum 属は、次に少ない x = 7 であることが最近明らかにされた(Viruel et al.(2008) "The diploid nature of the Chilean Epipetrum and a new base number in the Dioscoreaceae" New Zealand Journal of Botany 46: 327-339)。

Borderea 属のニ種のうち B. chouardii  のほうは極めてわずかの個体しか発見されていず、ヨーロッパの最絶滅危惧種になっている。生育地では個体数の増加は観察されておらず、新たな集団の発見もなく、いろいろな人為的な繁殖の試みもあまり効果がなく、この種が生じた頃とは大きく異なっているピレネーの環境の中で、種が自然に消滅する過程をただ観察するしかないだろうとのことである (Garicia (1998) "Studies for the conservation of Borderea choualdii (Dioscoreaceae), one of the most endangered soecies in Europe" Dioscorea Research 1, p55-57)。

もう一種のB. pyrenaica は数百から数千個体からなる集団がいくつかの谷に確認されており (Garcia & Antor (1995) "Age and size structure in populations of long-lived dioecious geophyte: Borderea pyrenaica (Dioscoreaceae). Internat. Jour. Plant Sci. 156: 236 - 243)、集団間 (= 谷の間)や集団内での遺伝子の流動、またそれに関わるアリなどについての研究が進んでいる
 

スペインアラゴン地方。 右のピークの高さは約2,300m。

Borderea pyrenaica Miegev.

B. pyrenaica は、上のような中央ピレネーのスペイン側の、数箇所の谷の森林限界を抜けたあたり、石灰岩の岩礫がある程度安定に厚く重なっている地帯におもに生育している。

岩礫の下の土壌に根を下して地下器官を形成し、岩礫の間を通って地表まで茎を伸ばし、地上部を茂らせる。一見するととてもヤマノイモ科とは思えない小型の植物であるが、積み重なった数十センチの岩礫の層の間を伸びる茎に、ヤマノイモのツルの伸びかたの片鱗を感じる。
 

上は Borderea pyrenaica。 ピネタ谷 2,000m 付近、1995年8月6日。葉は厚 く毛はない。

左の写真はメス株。葉の表面の水滴は、直前の雷雨によるもの。花期は終わり、日本のヤマノイモ属のものによく似た形の3室のカプセルが出来ている。一 つのカプセルには最大で6個の種子が入っている。種子はTamus 属の種子によく似た丸い形をしているが、かつて翼を持っていた頃の名残りかと思われるような跡がベルト状に土星の輪のようについている点と、格段に硬い点が Tamus 属の種子とは異なっている。一方、種子の内乳に含まれているトリアシルグリセロールの分子種組成は、Tamus のものと、さらに日本のオニドコロのものともよく似ている。

右はオス株。おそらく雪に長く覆われていた場所のためか、花期が遅れていた株。花序はヤマノイモやナガイモのオス花序によく似ている。

この植物の送粉はアリによって行われており、密度が高い集団内の個体ごとの父性遺伝子の解析によると、35m以上の距離を運ばれているとのことである (Viruel et al. (2008) "Contemporary gene flow by pollen and mating patterns in Borderea pyrenaica (Dioscoreaceae)" Abstracts of The 4th International Conference on The Comparative Biology of the Monocotyledons & The 5th International Symposium on Grass Systematics and Evolution, August 2008, Copenhagen, p98-99)。

地上部の生育期間は毎年6月から9月と短い。地下器官からは一年に一本のシュートが発芽し、地下器官にはその跡が残るため、その数を数えると種子が発芽したときからの地下器官の古さが分かる。花を着けるまでには15年ほどかかり、 300年以上長生きの個体も少なからず見つかっている (Garcia & Antor (1994) "Sex ratio and sexual dimorphism in the dioecious Borderea pyrenaica (Dioscoreacea)" Oecologia 101: 59-67)。

Borderea の一年目のイモ(バックは10mm方眼)。種子が発芽し、芽生えが成長し、地上部は冬に入り枯れるとき、地下部には小さなイモが出来ている。この種子からの一年目の地下器官の肥大は、種子の貯蔵養分の脂肪(トリアシルグリセロール)によってほとんどまかなわれている。

翌年からの地下器官の肥大は遅々としている。

Borderea の地下器官 (イモといってよいのかどうか)。 左端の大きなイモは、一年に一本伸びだした芽のあとを勘定すると、300年を少し越えている。(この地下器官を掘り出した1996年の300年と少し前、もし1685年なら、バッハ、ヘンデル、スカルラッティー(ドメニコ)らが生まれた年である。)

この種の地下器官も、ヤマノイモ科の他の種と同様に、ジベレリン合成経路を二本稼動させていることがわかっている (丹野、ガルシアら (1998))。

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