Borderea Borderea 属は、B. pyrenaica Miegev. と B. chouardii (Gaussen) Heslot の2種からなっている。 2002年のCaddickらの分類法によった場合には、以前にも Dioscorea属にあったときがあるため、そのときの名前を用い、前種なら Dioscorea pyrenaica Bubani ex Gren. となる。 両種とも小型であり、中央ピレネーのおもにスペイン側に "高山植物" として生育している。 |
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スペインアラゴン地方。 右のピークの高さは約2,300m。 Borderea pyrenaica Miegev. B. pyrenaica は、上のような中央ピレネーのスペイン側の、数箇所の谷の森林限界を抜けたあたり、石灰岩の岩礫がある程度安定に厚く重なっている地帯におもに生育している。 岩礫の下の土壌に根を下して地下器官を形成し、岩礫の間を通って地表まで茎を伸ばし、地上部を茂らせる。一見するととてもヤマノイモ科とは思えない小型の植物であるが、積み重なった数十センチの岩礫の層の間を伸びる茎に、ヤマノイモのツルの伸びかたの片鱗を感じる。 |
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上は Borderea pyrenaica。 ピネタ谷 2,000m 付近、1995年8月6日。葉は厚 く毛はない。 地上部の生育期間は毎年6月から9月と短い。地下器官からは一年に一本のシュートが発芽し、地下器官にはその跡が残るため、その数を数えると種子が発芽したときからの地下器官の古さが分かる。花を着けるまでには15年ほどかかり、 300年以上長生きの個体も少なからず見つかっている (Garcia & Antor (1994) "Sex ratio and sexual dimorphism in the dioecious Borderea pyrenaica (Dioscoreacea)" Oecologia 101: 59-67)。 Borderea の一年目のイモ(バックは10mm方眼)。種子が発芽し、芽生えが成長し、地上部は冬に入り枯れるとき、地下部には小さなイモが出来ている。この種子からの一年目の地下器官の肥大は、種子の貯蔵養分の脂肪(トリアシルグリセロール)によってほとんどまかなわれている。 |
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翌年からの地下器官の肥大は遅々としている。 Borderea の地下器官 (イモといってよいのかどうか)。 左端の大きなイモは、一年に一本伸びだした芽のあとを勘定すると、300年を少し越えている。(この地下器官を掘り出した1996年の300年と少し前、もし1685年なら、バッハ、ヘンデル、スカルラッティー(ドメニコ)らが生まれた年である。) この種の地下器官も、ヤマノイモ科の他の種と同様に、ジベレリン合成経路を二本稼動させていることがわかっている (丹野、ガルシアら (1998))。 |